Living Research

テクノロジーがもたらす創造的で純粋な農業

with Frank van Kleef (ロイヤル・プライド・オランダ共同経営者)

profile

Frank van Kleef (ロイヤル・プライド・オランダ共同経営者)

北ホランド州 オランダ

Frank van Kleef(フランク・ファン・クレーフェ)氏はオランダ北ホランド州の巨大農業地帯に位置する最先端農業地帯アグリポート A7に居を構える農業企業、ロイヤル・プライド・オランダの共同経営者。1980年代後半のオランダ農業のICT(情報通信技術)導入を牽引した農家の一人。現在はオランダ国内でトマトを栽培するだけでなく、中国やアメリカで最先端技術を使用した生産管理システムの普及に取り組んでいる。

Frank van Kleef (ロイヤル・プライド・オランダ共同経営者)

"野菜が幸せかどうかを見ることができるのは人間だけなのです。"

- アグリポート a7で農業を営む農家の人々はこれまでの農家とどのような違いがあるのでしょうか?

フランク・ファン・クレーフェ (フランク) : 一人ひとり仕事の進め方は異なるので一概には言えませんが、今後の農家は主に2つに分かれるでしょう。前者は伝統的な農家で、一般的な圃場や温室で作物を育てます。彼らは栽培から販売、従業員の管理まですべてのことに対して一人で責任を持たなければいけません。

一方で、私たちのように企業として農業を営む農家がいます。私たちは農業を行う上での必要な役割を3つに分割しています。一人は栽培の専門家として一日中温室で彼の部下と野菜を栽培しています。もう一人オフィスで人事、マーケティング、流通、財政などすべてのマネジメント業務を行っています。そして私は会社の今後の方針の策定や行政とのやりとり、国外での交渉、団体の運営など会社の外での仕事を主に担当しています。私たちの仕事はすべての業務が首尾よく進んでいるかを確認するためのものになるのです。こうした組織体制は、農家が企業へと変化していくと自然に移行するものだと思います。

また、実際の栽培に関していえば温室の中では常に一定の光や気温、湿度を調節することができるので、私たちは通年で作物を育てることができます。テクノロジーによってトマトだけでなくあらゆる作物を世界中どこでも栽培できるようになりました。すべての国や地域、あるいは目的に合わせて、最も利益率の高い状態で野菜を販売することが可能となるのです。必要なのは設備投資だけです。

- 時代が経っても変わらない点はありますか?

フランク : 私は40年間ビジネスの領域から農業に関わってきましたが、トマトの育ち方は今も昔も変わりません。苗木自体を見れば時代が変わっても同じです。それを育てるためのテクノロジーによってハウス内の温度や水やりの管理など多くの仕事は機械で管理できるようになりましたが、依然として機械は野菜の表情を読み取ることはできません。野菜が幸せかどうかを見ることができるのは人間だけなのです。これは今でも最も重要な仕事です。私たちはテクノロジーを使用して様々なことができるようになりましたが、結局は作物をどうしたら幸せにできるかということをやっているに過ぎないのです。

- どういった経緯で、農業にテクノロジーを導入されたのですか? また、その時の周囲の反応はどのようなものだったのでしょうか?

フランク : 私の会社は創立してから55年が経ちますが、60年代当初は現在の1%の大きさにしか過ぎない4000平方メートルしか圃場がありませんでした。そこからビジネスを発展させましたが、それと同時にテクノロジーを導入しました。

最先端な試みをするということは、常に人々の前に立つということです。周りには、「私はこれまでと同じやり方で育て続ける」という人もいましたが、トマトの価格が年々下がる中で彼らの経営は立ちいかなくなってしましました。こうした状況は日本でも当てはまるでしょう。日本にいる農家の人びとも必ずしも全員が専業でやっているわけではありません。

しかし、今後日本でもTPPの影響で安い農作物が大量に輸入されるようになった時、質もさることながら、価格の面でもマーケットで受けいられるものを作らなければなりません。その解決策の一つはテクノロジーです。しかし、それ以上に重要なのは生産者が協力をし合うことです。協力することによって、より効率的に仕事を行うことができます。例えば私の会社では、輸送、梱包、エネルギー、ソフトウェアなど農業に必要なすべての領域における企業、パートナーがいます。これによって一人ではできないことも、協力することによって大きなことが成し遂げるようになるのです。

"テクノロジーが人間の仕事を奪うことはありません。 個人の仕事はより純粋なものになるのです。 "

- テクノロジーの発展により、農家の仕事は今後どのようなものに変わっていくと思いますか?

フランク : 自分の会社を考えると、私の仕事は何度も変わってきました。40年前の私は温室の中で働いていました。その時は作物を育てることよりも、新しいビジネスモデルを作ることに興味がありました。同じように、今私たちの会社で栽培の管理をしている友人はトマトを育てること以外の一切に興味が湧かないのです。

昔はそれぞれが得意であったり興味がある分野は仕事の一部でしかなく、私たち農家はすべての作業を自分一人でやらなくてはいけませんでした。育てることは20年前までは、農家の仕事の95%を占めていました。つまり、農家の成功は育てることに全く依存していたのです。

勿論現在でも栽培することは非常に重要ではありますが、それは私たちの仕事の4分の1でしかありません。もし、質の良いトマトを作る農家がいても、彼が売り方やコスト管理ができなければ、十分な利益を残すことはできないでしょう。
テクノロジーの農業への導入は効率化の側面だけでなく、その人個人の能力の純粋な質の高さを反映することを可能にしてくれるのです。そして高い能力を持った個人が集合し、生産から輸送、販売に関するネットワークを形成することにより、すべての作物においてより高いクオリティーで農作物を作ることが可能になるのです。

一般的に危惧されているように、テクノロジーが人間の仕事を奪うことはありません。例えば、15年前まで私は毎日トマトを栽培していたため、他のことには手が回りませんでした。しかし、今のパートナーとの出会いと機械の導入によって、私は農作業以外の仕事に時間を割けるようになり、結果として、私たちの会社は成功することができたのです。

私の会社では、常に「私の代わりに仕事ができる人がいれば、それに勝るものはない」と言っています。もし他の人が私の代わりを果たせるのであれば、私自身は次のステップへ進むために時間を使えるようになるのです。現在、私の会社ではトマトの梱包も自分たちで行っていますが、梱包するための容器もトマトに最も適したものを自分たちで作りました。

このように、今ある仕事から離れることができれば現状をよくするために時間やエネルギーを使うことが可能になるのです。つまり、テクノロジーが発展すればするほど、より多くの可能性が開けるのです。

- 規模の小さい農家は今後、生き残ることはできないのでしょうか?

フランク : そんなことはありません。全体的には数は減るでしょうが、業界の細部にはまだ多くの選択肢が残っています。より多くの人が協業し、作業を分担することで、一人一人は一層自分が最も得意な分野に集中することが可能になります。組織を作り、テクノロジーを導入することによって、個人の仕事はより純粋なものになるのです。

"都市型農業を通じて、本当の意味で農家の重要性に気がつくことができるのです。"

- 今後の人間と食の関係性はどのようなものになると思いますか?

フランク : テクノロジーの導入によって得られる最大の恩恵の一つに安全性があります。これまで屋外で栽培していた野菜は常に害虫の危険にさらされていましたが、温度や湿度、光量が完全に管理された温室の中で育てられる野菜たちは害虫や病気とは無縁で、農薬を使わず食すことができます。さらに、現在の消費者はこれまでにないほどに自分たちが食べる食物がどこでどのように育てられているのかということに関心を持っていて、今までは不鮮明だった食の流通がインターネットによって誰もがアクセスすることが可能なものとなり、より安心で安全なものとなるのです。

また、若い世代の多くは何を食べたら健康に良いのかということや、食事をするという行為そのものをより本質的に楽しむようになったと思います。私たちまでの世代にとって、食事はより効率的に、より安く、より早く済ませるべきであると思っていました。そして車や家、テレビのような家電などにお金を使っていたのです。しかし、それらは今は大して重要ではないということが分かってきました。

国によって価値観は多様ですが、それでも先進国に住む多くの人は自らの文化や生活をより大切にしようと思うようになったのです。チェーン店で世界中どこでも食べられる安価な食べ物よりも、無農薬で人の手が込んだ料理を自ら作ったり食べることに価値を見出しています。その国に固有な食物の多様性は情報技術によって何世代後にも残されるだけでなく、様々な国で食料を同じレシピで食べられるようになるのです。

- 都市と農村部の関係はどのように変化すると思いますか?

フランク : オランダ国内の場合を見れば、これまで農家は都市部に住む人々からその仕事を十分に評価されることはありませんでしたが、最近では農家の人々の仕事が徐々に賞賛を得ているように思われます。

また、オランダでは都市型農業の事例を耳にする機会が増えてきました。例えばビルの屋上で野菜を育てるといった試みや、スーパーマーケットの棚に家庭菜園用のキットが販売がなされています。都市で野菜を育てようという試み自体は自分が口にするものがどのように育つのかを知ることができるという意味でとても大切なことですが、持続可能ではないでしょう。常に変化し続ける農作物は工業製品とは異なり一定の質を保つことは極めて困難であり、安定して作れる保証はありません。都市に住む人たちが農業に興味を持てば持つほど農家の人々が日々行っていることの難しさが評価され、本当の意味で農家の重要性に気がつくことができるのです。

Interview & Text : Marika Nakada, Yusuke Nishimoto (EUGENE KANGAWA STUDIO)