Living Research

建築のコミュニカビリティ

with Heatherwick Studio

profile

Heatherwick Studio

ロンドン 英国

Heatherwick Studio(ヘザウィック・スタジオ)はロンドンを拠点とする1994年にトーマス・ヘザーウィックにより設立された、建築、都市インフラ、彫刻、デザイン、戦略的思考など多岐に渡る領域で活躍するデザインスタジオ。トーマス・ヘザーウィックはマンチェスター工科大学とロイヤル・カレッジ・オブ・アートで3Dデザインを学び、2004年英国の王立芸術協会より最年少で王室工業デザイナーに任命され、2006年Prince Philip Designers 賞を受賞。2010年、ロンドン・デザイン・メダル、王立英国建築家協会 ルベトキン賞を受賞。2010年上海万博の英国パビリオンや、2012年ロンドン五輪の聖火台のデザインで知られる。

 

All images courtesy of Heatherwick Studio

Heatherwick Studio

建築家の手を離れても建築が語りかける、誰しもが関与できる物語性のあるコミュニカティブな建築

ヘザウィクデザインスタジオによる、プレミアム・ジン「ボンベイ・サファイア」の蒸留所、Bombay Sapphire Distillery。そこにはクラフトマンシップとテクノロジーの共存以上のものがあった。

英国南西部の町ラヴァーストーク・ミルにあるラヴァーストーク・ミル蒸留所。この地は美しい自然に囲まれ、両側には澄み切ったテスト川が流れ、それを利用して穀草の製粉場として稼働したのが始まりで、その後製紙工場として約200年にわたってインドおよび大英帝国向けに高品質の紙幣を製造していたという歴史をもつ。匠の技と伝統ある歴史的な場所を、アイコニックなブランドの産業施設へと新しい構想で伝統を回復するということが目指された。それは1761年に編み出されたレシピを忠実に守りながらも、ジンメーカーとして飽くなきクオリティの追求と革新の精神を継続してきたボンベイ・サファイアにとって相応しい場所となった。

蒸留所ではボンベイ・サファイアの製造工程、高湿度の熱帯の気候と乾燥した地中海地方の気候を再現した2つのガラス張りの植物園が併設され、ボンベイ・サファイア特有のフレーバーに欠かせない10種類のボタニカルが栽培されている様子が見学できる。他にもラヴァーストーク・ミルの歴史について学べるエリアや、ボンベイ・サファイアのカクテルを楽しめるバーもあり、ボンベイ・サファイアの世界観を体感できる空間となっている。

ボタニカルこそが価値の源であるボンベイ・サファイア。伝統を堅守するだけでなく最新技術を活用し、進化させる。ジン製造の根幹である蒸留プロセスには各所に設置されたセンシングデバイスにより温度等が管理され、品質維持と生産能力の向上を図っている。エネルギーは水力、太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギーで賄い、蒸留に使用した熱はボタニカルガーデンの温室の暖房に再利用され、バイオマスから副産物として出る炭酸カリウムは肥料として使われる。内部の害虫駆除には殺虫剤ではなく天敵となる益虫を放っており、外界の生態系を守り環境負荷の低減を徹底し、英国の建築環境性能評価制度、BREEAMにおいて最高レベルの評価を得た。

image1

現在進行しているTeesside Power Stationプロジェクトでは、かつて栄えていた産業の中心地であったイングランド北部ミドルスブラ近くに新しくつくられる住居のためのエネルギー供給源として、有機廃棄物を燃料とするバイオマス燃料発電所のデザインを手がけている。このプロジェクトは、いかに自分たちの電力供給源である発電所が人を引き寄せる魅力的な場所になり得るかという課題に取り組んだといえ、それは有刺鉄線に囲まれた危険な場所であるという発電所のイメージを払拭する、植物や芝が植えられ、人々が行き交い日光浴やピクニックなどができるパワーパークに、生きた博物館あるいは学校としての機能のある教育の場、観光地、さらには結婚式なども行える公共の場が併設されたバイオマス発電所だ。人が集う体験型の建築は、かつての地域の産業遺産との関係を再構築するだけでなく地域経済に寄与する雇用と施設の創出をも可能にする発電所以上の発電所となるだろう。

 

image2

機能、性能面の評価だけでなく、建築家の手を離れても建築が語りかける、誰しもが関与できる物語性のあるコミュニカティブな建築。建築はあくまでも建築家のひとつの言語であるが、そこには主従関係のない、主体的でない建築のあり方がみえるだろう。というのは、ある文化を切り取って建築の中に入れようとする建築が主体的に文化に決定的な価値を付与している、例えば学校という建築により教育システムがプログラムされ、美術館という建築が美術の枠組みを決めているとも考えられる、そんな建築ありきの建築ではなく、周囲の環境と風土、文化を含めて一体として価値があり評価される建築であるということ。世の中の欲しいものだけを取り不要なものを捨てるという極めて勝手な人間的行為、反自然的な行為を象徴する「工場」という建築が、技術と巧みな構想により生態系にうまく組み込まれている。それは、テクノロジーと自然の共存というだけでなく、土地の風土、そこに根付く文化など様々な要素が組み合わされ、建築が生態系の一部として組み込まれ、環境とともに変化し、物語を生み出していくようである。人間が建物を建てるというのは外的環境からの保護、遮断だが、これからは建築が外的環境に溶け込み、そこにいる人とともにかたちを変えていく建築が必要となるだろう。自然が人間の支配を受けず成長し変化していくように。

Interview & Text : Marika Nakada (EUGENE KANGAWA STUDIO)