Living Research

エネルギー源としての植物生化学の可能性

with Pablo Bombelli (ケンブリッジ大学博士研究員)

profile

Pablo Bombelli (ケンブリッジ大学博士研究員)

ケンブリッジ 英国

Pablo Bombelli(パブロ・ボンベリ)氏はケンブリッジ大学(生化学科)の博士研究員。ミラノ大学在学中より光生物学および電気化学についての研究を始め、現在はシアノバクテリアや微細藻類が発生する電流を実用化などを研究し、国内外のデザイナーと協業し様々なプロダクトを手がける。

 

Moss FM:苔が生成する電力を使用したラジオ
Moss Voltaics:発電する苔を植生し、電荷を蓄積するコロニー

 

 

Pablo Bombelli (ケンブリッジ大学博士研究員)

"コケを選んだのは偶然でした... デザイナーとのコラボレーションは私に何かに挑戦する自由を与えてくれました。"

- 生物化学に興味をもったきっかけはなんですか?

Paolo:私は植物(苔類と藻類を含む)によって進化した光合成、すなわち太陽エネルギーを利用して水を分解し電子を生成するシステムに完全に魅了され、このシステムを利用した電流の生成に関する研究を始めました。

エネルギーは水、食料、空間、自由と同様、極めて重要です。残念ながらそれは必ずしも無限ではなく、資源のいくつかは枯渇していくため、別のエネルギー源を見つける必要があるでしょう。私たちの社会の大部分は原油とその他の化石燃料を基盤にして発展してきましたが、同時に汚染や汚染に関連する疾患など極めて多くの問題を引き起こしてきました。化石燃料の使用と温暖化の関連性には依然としてある程度の不確実性があるものの、その関連性は非常に強いと言われています。そこで私は植物、苔類、藻類を利用して電気エネルギーやバイオマスエネルギー、食物エネルギーのいずれかの形態でのエネルギー生成について研究することに時間を捧げています。

- 苔などの生命体からエネルギーを抽出するというアイデア自体は古くからあったものなのでしょうか?

Paolo:生物電気化学システムについての最初の研究として、1911年のM.C.ポッターによる「有機化合物の分解を伴う電気効果」が挙げられますが、彼は植物ではなく菌類(出芽酵母)を利用して電気エネルギーを生成しました。

生物電気化学は新造語と誤解されがちですが、最初の概念はルイージ・ガルヴァーニによる動物の研究の中で、およそ200年以上前に提唱されました。

ガルヴァーニは電気を生物学と切り離せないものとして認識し、筋肉を動かす要因として「動物電気流体」という造語をつくり出しました。つまり電流は生物学的物質によって発見されたということです。私たちを含めて生物有機体の中には、非常に多くの電子の動きが生じているのです。

- 生物電気化学システムの象徴として、苔を選んだ理由はどういったところにあるのでしょうか?

Paolo:デザイナーから共同研究の誘いがあり、展示会で出展するにふさわしい確実でたくましい植物が苔だったからです。例えば、藻類は時として気まぐれで、成長が予測できないというリスクがありました。米を使った実験もしましたが、米には栽培開始時は種でも終了時には1メートルの高さにまで育つという問題がありました。間もなくして、苔類を試してみるとそれは非常にうまくいったのです。苔を選んだことはデザイナーと共に作業するための偶然でしたが、今や苔類について厳密な科学として研究することが可能になり、現在、私たちは苔類に関する正式な科学論文を出版しようとしています。

- あなたは様々なデザイナーとコラボレーションをしていますが、その重要性についてどう考えますか?

Paolo:最初のコラボレーションはカルロスとアレックスと行いましたが、いくつか困難がありました。なぜなら私たちは2つの異なる言語を使用しており、私たちが気に留めないことに彼らは注意を払うことがあり、またその逆もありました。少なくとも2回は完全に無意味なミーティングで、最終的な解決もないままお互いに話をしていました。

しかしデザイナーたちが生物学を勉強し、長い質問リストを作って私たちのところに戻ってきたときから、私たちは同じ言語で話し始めました。ほんのわずかな知識が私たちの架け橋となったのです。コミュニケーションは断然容易になり、実りの多いものになりました。

科学者でありデザインと建築に強い関心を持った女性との共同研究では、土から水分を吸収し植物へ給水することができる素材でつくられた建物に光合成をする有機物のコロニーを形成し定着させることに成功しました。それは建物内に植物を調和させるためのより持続可能な方法であるでしょう。

私はデザイナー達と共に作業することをとても楽しんでいて、それは自由の幅をいっそう広げました。以前まで私は論理的な理由が見つからない時に、好きだというだけで何かに挑戦することはありませんでしたが、カルロスが言った「うまくいかなくても、そんなことは大したことではないよ。人がどういう反応をするか見てみよう」という言葉は、私に何かに挑戦する自由を与えてくれました。今では私は金曜日の実験と称して、木曜日までは純粋に科学に基づいて研究をし、金曜日により創造的な研究をしています。

"植物の生物電気化学システムは再生可能エネルギーの一つになり得ますが、実際一つの技術だけが有力な解決策ではないと考えています。"

- 将来的に藻や苔から大規模に発電することは可能になるでしょうか?

Paolo:少し哲学的な考察をすると、これまで私たちは、必要なエネルギー使用量についてあまり考えずに、使えるだけのエネルギーの全て使い社会を発展させてきました。私は、どこかでエネルギー需要について再度整理すべきだと考えます。
私たちが議論している苔類およびその他の光合成有機物を利用した技術は植物生化学システムと呼ばれていますが、仮説上の社会では最適化された植物生化学システムにより私たちは1平方メートルあたり3ワット電力を有することが想定されます。(現在、英国では1平方メートルあたり1.5ワット、日本では1平方メートルあたり3ワットを消費しています。)

しかし、日本全体をこの技術でカバーしすべてに動力を提供することは、理論的には可能ですが現実的ではありません。植物の生物電気化学システムは太陽熱、生物学的または物理学的技術、風力、水力、地熱等の再生可能エネルギーの一つになり得ますが、実際、一つの技術だけが有力な解決策ではないと考えています。例えば、毎日太陽の光があるわけではなく、曇っていて風の強い日もあるように、私たちは異なる技術を統合し変動を緩和するべきでしょう。

さらに、植物生化学システムを用いて電気エネルギーを生成するだけではなく食物を得ることもできます。現在、ZSLとShuttle off Foundationと共同で、西アフリカのSanto Mae Princess Island(サントメ・プリンシペ島)で現地の作物を栽培して電流を生成しようと畑作実験を行っていますが、他にも汚染された水をろ過するためにもこのシステムを利用することもでき、システムの応用の仕方には複数のレイヤーがあるといえます。
あなたの質問に対する私の個人的見解をお伝えしますと、個人的には、異なる技術が手の届く範囲で共に稼働する必要があると考えています。

"バイオテクノロジーにも法規範を設け、ある程度の制約を課すことは十分考えられるでしょう。"

- 植物を生命体だと考えると、それを利用してエネルギーを生成するという文脈において倫理的な問題について考えたことがありますか?ロボット工学にあるロボット三原則なるものがバイオテクノロジー領域においても作られるべきだと考えられますか?

Paolo:植物は、自らに必要な量をはるかに超えた光を動力化することができ、私たちは植物を枯らさずに電流を生成できます。私たちは植物を枯らすようなことはしませんし、私たちは植物が利用していなものを利用し、バランスを見出そうとしているのです。

例えば映画『マトリックス』(1999)では、邪悪な機械が人間の体を使って電流を生成するというものですが、電流生成のために人間は生成するだろう電気よりも多くの食物が必要ですが、植物は太陽光を利用するため人間よりはるかに効率がいいと言えます。それがこの惑星の創生期に最初に出現したのが植物であった理由でもあり、この理由からバイオテクノロジーにも法規範を設け、ある程度の制約を課すことは十分考えられるでしょう。

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Moss FM:created by Fabienne Felder, Dr. Paolo Bombelli and Ross Dennis of the University of Cambridge
Moss Voltaics is a Research Project developed by the Institute for Advanced Architecture of Catalonia (IaaC) at Open Thesis Fabrication 2014 by:
Researcher: Elena Mitrofanova / IAAC Faculty: Silvia Brandi, Alexandre Dubor, Luis Fraguada / Scientific development: Paolo Bombelli, University of Cambridge / Collaboration: Toni Cumella, Ceramica Cumella

Interview & Text : Marika Nakada (EUGENE KANGAWA STUDIO)